メンタルパフォーマンス・ラボ  


チームや個人に実施する内容

全国優勝のサポート例

「心・技・体」のバランスが大切です。        


石井聡(2008)日本スポーツ心理学会第35回記念大会発表抄録の原稿を加筆修正
このチームの競技成績は、「全国選抜大会優勝、国民体育大会1位、インターハイ準優勝」などです。

※ 『スポーツメンタルトレーニング指導士活用ガイドブック』,ベースボール・マガジン社の石井執筆原稿にもう少し詳しく内容を書いています。何かの参考になればと思います。
                                              


高校スポーツ選手の心理的サポートに関する事例研究


はじめに

 高校生のチームに対してサポートを継続して実施する場合に約2年半で選手が、引退してしまう。新チームに対して、また最初からメンタル面強化を開始する必要があり、そのくり返しと言える。チームが新体制でスタートする時に、どれだけ上手く旧チームのメンタル面の強さを引き継ぐことができるかがチームの目標達成するためのポイントと考える。

 200G年より、競技力の向上を目的とした心理的サポートを実施しているチームが、200Y年の春の全国選抜大会で優勝をした。このチーム全体としては、200X年の春の全国選抜大会は3位、200X年のインターハイでは準優勝であった。

本研究では、平成XX年に全国優勝したチームについて平成YY年の春の選抜大会以降、つまり全国優勝したチームが、主力選手ではなかった時から優勝するまでについて選手の心理的側面が心理的サポートの実施により、どのように変化したかを報告する。

方     法

 本研究の参加者は、A県県立A高校男子○○○部員15名であった。本研究の調査期間は、200X年3月から200Y年の4月の13ヶ月間であり、このチームに継続的に心理的サポートを実施した。本研究では、選手の心理的側面を分析するために心理的競技能力診断検査(DIPCA.3)を用いて、200Y年4月全国選抜大会3位直後、200Y年8月全国インターハイ準優勝直前、200X年4月全国選抜大会直後に調査した。また、このチームの選手に対し、この3回の全国大会後に心理的サポートやメンタルトレーニングの内容及び効果についてのアンケート調査を実施した。

本研究者が実施した心理的サポートの内容は、

@メンタルトレーニング講習会、A練習や試合時の観察と実力発揮のための心理的サポート、Bモチベーションビデオの作成、CDIPCA.3の結果から選手個別の心理的サポート、D指導者に対しては、選手やチームのメンタル面の状態や雰囲気などを伝えると同時に、コーチ教育として、選手に対する接し方や声のかけ方などのアドバイスを実施した、E練習時や試合における音楽の活用、Fチーム内にメンタル係という役割をつくる。このメンタル係りとは、本研究者(長崎支部支部長)が不在時においてチームのメンタル面強化の中心としての役割であった。

また、メンタルトレーニング講習会で指導した心理的スキルは

@自己分析、A目標設定、B練習日誌、C姿勢や態度のトレーニング、Dコミュニケーション、Eリラクセーションとサイキングアップ、F音楽の活用、Gイメージトレーニング、H集中力のトレーニング、Iポジティブシンキング、Jセルフトーク、Kコミュニケーション、Lチームビルディング、M試合に対する心理的準備などであった。このチームに実施したメンタルトレーニングプログラムは、高妻(2002)が作成したものを使用した。

 加えて、練習や試合時には、心理的準備としてのリラクセーションやサイキングアップを実施、またメンタル面強化などのアドバイスを選手個別にも実施した。今回、実施した心理的サポートには、電子メールや携帯電話による選手や指導者とのコミュニケーションやアドバイスを実施した。このサポートを通して、選手や指導者との連絡を密にすることで、現場でのサポートができない期間においてもチームの状 況や選手の状態を把握し、選手や指導者に対しての心理的サポートを実施した。

結果および考察

1. 心理的競技能力診断検査より

DIPCA.3の結果では、勝利意欲、の項目以外において200X年より得点が高くなっている。協調性については、200X年8月と200Y年4月については、ほとんど差が見られない。忍耐力、闘争心、自己実現意欲、自己コントロール能力、リラックス能力、集中力、自信、決断力、予測力、判断力については、特典の向上が見られた。これは、メンタルトレーニング講習会を含む心理的サポートが、選手たちの心理的側面にいい変化をもたらしたと考えられる。



 注)一番内側から心理テスト実施1回目の順番です。

2. アンケート調査による内省報告より

「メンタルトレーニングを始める前と今とでは考え方や練習などに違いがありますか?」という質問に対して、

○選手は、「ありました」 → 「笑顔になることで、まわりを明るくでき、練習を楽しむことができる」

○選手は、「ありました」 → 「失敗しても気持ちを切り替えることで、同じ失敗をズルズルとしないようになった」

○選手は、「常に自信を持つ事が大事」 → 「物事をプラスに考えるようになった」→「大会までモチベーションを上手くもっていけた」

○選手は、「前向きになった」 → 「なにごとも、プラス思考に考えられるようになった」

「メンタルトレーニングを始めてから、以前と比べあなたのやる気、態度、プレー、考え方など、何か変わりましたか?」という質問対して

○選手は、「全部変わった」 → 「やる気も以前により起きるようになったし、切り替えができるようになった」

○選手は、「落ちついたプレーができるようになった」 → 「プレーが昔より思いきったプレーができるようになった」

○選手は、「練習前にリラクセーションとサイキングアップをするようになってから嫌だったノックが楽しくなった」 → 「練習中に失敗しても次のことに集中できるようになった」

○選手は、「サイキングアップを行う事によって以前より楽しい気持ちで練習にのぞむ事ができるようになった」 → 「ミスした後でもすぐに切り替える事ができるようになった」 → 「思い切ったプレーができるようになった」

○選手は、以前に比べて、プラスに考えることができるようになった」 → 「やる気もあがったし、プレーもおもいきったプレーができるようになった。考え方も、いい方に考えるようになった」

「メンタルトレーニングを始めてから、以前と比べ、チームのやる気、態度、プレー、考え方など、何か変わりましたか?」という質問対して


○選手は、「ミスをした後に下を向かないようになった」 → 「ピンチな場面でも平常心でプレイできていた」 → 「どんな状況でも落ち着いてプレーできる」

○選手は、「よく声がでるようになったし、マイナスに考える人が少なくなった」 → 「やる気もあがって、すばやい行動ができるようになった。手をぬいたプレーもなくなったし、考え方もプラス思考になった」

○選手は、「メンタル面に関する声かけが増えた、試合中、みな笑顔でやるようになった」 → 「元気よくなった。練習中にまわりを盛り上げる声が多くなった。試合中、笑うようになった」

以上などのように、選手からはポジティブで具体的内省報告が得られるようになってきている。

 また、保護者からも「ピンチの時でも選手たちは、笑顔でプレーしていて、保護者のほうがハラハラしていた。」保護者に対してもメンタルトレーニングを実施してほしい」という声も聞かれた。

 このことからも、本研究者が実施した心理的サポートは、選手にポジティブな変化をもたらしたと考えられる。


付記

 この研究は、長崎県体育協会グループが実施している、スポーツ選手の体力総合診断時に実施したメンタル面診断のデータを一部使用した。

文献

石井聡・高妻容一 2006 講習会形式メンタルトレーニングプログラムの効果について(その2) 東海大学スポーツ医科学雑誌,18,69-78. 

高妻容一・石井聡 2005 講習会形式メンタルトレーニングプログラムの効果について(その1) 東海大学紀要体育学部,35,33-39. 

高妻容一 2002 今すぐ使えるメンタルトレーニング:選手用,ベースボール・マガジン社

西貝雅裕 2002 野球のメンタルトレーニング実践研究報告 日本スポーツ心理学会第29回大会研究発表抄録69-70.

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